絶対に、離さないで。(仮)
学校に行くと、すでに天宮は席に着いていた。
昨日迷惑だと言われたばかりだが、諦めきれない琴葉は、意を決して挨拶をする。
「お、おはよう、天宮くん」
瞬間、周囲が凍り付いたように静かになった。
それもそのはずだ。
彼に挨拶する人なんて、今となっては誰一人としていない。
「・・・・・・」
案の定、無反応である。
「あー、えっと、体調はどう?」
「普通」
やっと答えてくれた。
「ならよかった」
「あ、琴葉ちゃんおは___何してるの!?」
教室に入ってくるなり、亜子は目を見開いた。
「ええと、朝の挨拶、かな」
「いやいや、見てよ、周りの反応!」
薄々気づいてはいたが、周りの視線が琴葉に突き刺さっている。
”うわ、あの天宮に話しかけるとか勇気あるなー”
”無視されるのわかってて話しかけるとか、まさかM?”
「あはは・・・・・・だよねえ」
一応覚悟はしていたけど、いざ行動に移してみると予想以上で今すぐ逃げ出したい。
とりあえず席に着こう。
結局、愛想のない3音の言葉しか発してはくれなかったけれど、何も返してくれないよりは幾らかましだろう。
と、心の中で小さな達成感を味わった。
「琴葉ちゃん、本当にどうしちゃったの」
亜子が心配そうに顔を除き込む。
「別にどうもしないよ。ただ、天宮くんってどんな人なのかなって気になるだけ」
「どんな人って、見たまんまに決まってるよ。無口で、無愛想で、無関心なロボット人間」
「その、ロボット人間っていう言い方はどうなのかな」
琴葉はその言い方が気に入らない。
「ううん、でもみんなそう言ってるし。でも、琴葉ちゃんが嫌だって言うなら、言うのやめる」
「うん。それに思うんだけど、心のない人間なんていないと思うの。確かに、天宮くんは表には一切出さないけど、心はちゃんとあるに決まってる」
「まあ、確かに」
「私は、それが知りたいな」
「琴葉ちゃん、それって・・・・・・」
亜子は、口をつぐんだ。
「でも、話しかけてもなかなか反応してくれないんだよね」
「そりゃあ、天宮くんは誰とも話さないし、琴葉ちゃんに限ったことじゃないよ」
「やっぱり毎日粘るしかないよね」
「そ、そうだね・・・・・・」
亜子は、これまでにない琴葉の決意に、応援するべきか否かわからなかった。