絶対に、離さないで。(仮)


その日の放課後のこと。


「琴葉ちゃん、帰ろう」


「うん」


亜子と足を並べて下駄箱へ行くと、そこに壁にもたれかかった天宮くんがいた。


「天宮くん、誰か待ってるの?」


いつもそそくさと帰ってしまう天宮と放課後に顔を合わせるのは、珍しい。


「あのさ、アンタの家に忘れ物なかった?」


「ごめん、朝は確認してないの。帰ったら探してみるけど、何を忘れたの?」


「それは・・・・・・」


なぜか口ごもる。


人に言えないようなモノなのか。


「琴葉ちゃん。ちょっとよくわからないんだけど・・・・・・。天宮くんが琴葉ちゃん家に忘れ物?」


隣でパクパクと口を開閉させる亜子。


そうだ、亜子には言っていなかったんだった。


「あー、えっと」


琴葉は、簡単に説明する。


「___というわけなの」


「なっ、いつの間にそんなことに・・・・・・!」


「流れで、ね」


「あ、天宮くんめ」


亜子が天宮を睨む。


「手っ取り早く返して貰いたいし、今からアンタの家行きたいんだけど」


「そ、そうだね、行こうか」


天宮、琴葉、亜子の3人が並んで帰路につく。


なんだか新鮮な光景だ。


3日前の琴葉にこんな光景が想像できただろうか。


否、できるわけがない。





特に会話があるわけでもなく、途中で亜子と別れた。


二人で琴葉の家に行くと、母の絵里子は嬉しそうに微笑み、天宮は相変わらずな表情で丁寧に挨拶をした。


「すみません、またお邪魔して」


「いいのよ~。さ、あがって」


「いえ、忘れ物を取りに来ただけなので」


「遠慮しないで」


天宮はおとなしく家に上がり、お茶をいただく。


「忘れ物って、もしかしてアレかしら。青い石のペンダント」


「はい」


「寝るときに邪魔かと思って外しちゃったんだけど。琴葉、部屋の棚の上に置いてあるから取ってきてちょうだい」


昨日天宮が寝ていた部屋に入り、近くの棚の上に手をやると、言われたとおり青い石のペンダントが置いてあった。


「綺麗・・・・・・」


石に光が差すと、キラキラと光って見える。


「あ、いけない」


ペンダントに魅入られてい時間を忘れそうになった。


早く返してあげないと。


慌ててリビングに行き、天宮にペンダントを渡す。


「はい、これだよね」


「ああ」


「それ、凄く綺麗だね」


「・・・・・・こんなの」


「え?」


「いや。じゃあ、そろそろ帰ります」


「あら、もう帰っちゃうの」


「用は済みましたから。お茶、ありがとうございました」


そう言って、すぐに家を出て行ってしまう。


琴葉は玄関を出て、天宮を追いかける。




「天宮くん、また明日ね!」


「あのさ、なんでそんなに僕のこと気にかけるわけ?」


「理由なんてないよ」


「迷惑だって言ったよね」


「ごめん、でも諦められなくて」


「アンタやっぱり頭おかしいよ」


頭がおかしいなんて初めて言われた。少しショックだ。


天宮はまっすぐに歩いて行く。


天宮がなんと言っても、諦められないな、と心の中で思った。


私は案外頑固らしい。


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