絶対に、離さないで。(仮)



「亜子、ちょっと図書室に寄りたいんだけどいいかな」



「うん、いいよ。あ、でも、私ちょっと職員室に用事があるんだ」


「じゃあ、下駄箱のところで集合ね」


「はーい」


亜子と別れると、琴葉は図書室へ向かう。


先日、レオナルド・ダ・ヴィンチの画集があるという情報を美術の先生から聞いたのだ。


「失礼します・・・・・・」


そーっと図書室に入ると、ここもまた、独特の古い本の匂いがする。


「あれ、誰もいない」


本来いるべきの図書委員がカウンターにいない。


トイレにでも行ったのかもしれない。


放課後に図書室の開けるのは図書委員か、司書さんしかいない。


とはいっても、今日は司書さんが来る日ではないし。


まあ、少しすれば戻ってくるだろう。


亜子を待たせてしまうとは思いつつも、少し図書室を見て回ることにした。


「まずは、お目当ての画集を・・・・・・」


”美術”と書かれた本棚を探す。


手前にはないから、奥の本棚だ。


「あ、あった、ここだ」


お目当ての場所を見つけ通路に入ると、琴葉はピタリと足を止めた。


なぜなら、その通路の奥で、天宮が壁にもたれかかって座っていたからだ。


「天宮くん、こんなところに」


「・・・・・・」


天宮は琴葉をじっと見据え、すぐにため息を着いた。


「あ、えっと、偶然だね」


スッと立ち上がると、その場から立ち去ろうとする。


「ちょっと待って」


琴葉は、天宮を引き留める。


だが、天宮は足を止める気配がない。


レオナルド・ダ・ヴィンチの画集も借りたい、でも天宮とはなるチャンスでもある。


「(画集ならいつでも借りられるけど___)」


琴葉が右往左往していると・・・・・・


「はー、ダル。早く帰りてーなー」


図書委員が戻ってきたらしい。


「(よかった、これで借りられて、天宮くんも引き留められる!)」


慌てて画集を探すと、すぐにカウンターで受付し、そしてまたすぐに天宮を追いかける。


「図書室で何してたの?読書好きなの?」


「・・・・・・」


「もしかして静かだからお昼寝、とか?」


「・・・・・・」


「あ、私ね、絵を見るのが好きなんだけど、特に___」


琴乃が絵のことについて語ろうが、質問をしようが、天宮は答えない。


気づけば、学校を出て道路を歩いていた。


そのときふと、亜子を置いてきてしまったことに気づく。


慌てて、スマホでメッセージを送る。


[先に帰ります]と。


「天宮くんの家もこっちの方なんだね」


「アンタ、どこまで着いてくる気?」


すると、ようやく天宮が口を開いた。


「途中まで・・・・・・って、ここどこ」


「俺の家。アンタの家はあっちの道」


「あ、そっか。・・・・・・天宮くんのお家大きいね。というか、案外近い」


私の家から10分もしない距離だ。


どおりで朝家に帰ってもすぐに学校に行けるわけだ。


いつからここに住んでいるのだろう。


でも、小中とも天宮とは違う。


「(引っ越してきたのかな)」


天宮は、鍵を開けて家に入っていく。


もうこれ以上踏み入るのは失礼だろう。


そう思って、琴葉は大通りに戻り天宮の家とは反対の道にある自宅に帰る。



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