絶対に、離さないで。(仮)
雨の日
「うわ、雨とか聞いてねえって……」
「嘘っ、傘持ってないんだけど〜」
じとっと湿った空気が漂う梅雨の時期。
予期せぬ突然の雨に慌てる。
朝の天気予報はどのチャンネルも「1日晴れ、洗濯日和、洗濯物を干すなら今日がチャンス」とキラキラの笑顔でお天気お姉さんが語っていた。
梅雨の時期なのもあって、折りたたみ傘を常備している人や、学校に傘を忘れていた運のいい人は、忘れた友人と相合傘でそそくさと帰っている。
「あ、あった!」
「良かったね、琴葉ちゃん」
そんな中、突然の雨に慌てていた生徒がここにも一人。
高校生活2年目の浅葱琴葉は、必死で自分のロッカーを漁っていた。
探していたのは、折りたたみ傘だ。
運良く置き傘をしており、なんとか濡れずに済みそうだ。
なければ、親友の亜子の傘に入れてもらおうと思ったのだけど。
傘も見つかってようやく帰れる、と足取り軽く下駄箱で靴に履き替える。
そして傘を開こうとすると、隣に亜子ではない誰かが立った。
同じクラスの天宮楓だ。
天宮は、空を一瞥すると、躊躇いもなく雨の中に足を踏み出した。
どうやら、傘を持っていないらしい。
「___ま、待って!」
今まで話したことなんて無かったのに、咄嗟に声を掛けてしまった。
雨に声が掻き消されたのか、無視されたのか、天宮はそのまま足を止めようとしない。
琴葉は慌てて傘を開くと、駆け寄って傘を持つ手を上へ上げた。
天宮が濡れないようにするために。
「……」
「傘、持ってないんだよね?」
傘を持っていて、あえて濡れて帰ろうとしていたのだとは考えにくい。
余程のことがなければ。
そう、例えば、失恋とか。
まあ、でも天宮に限ってそれは無いな、と思った。
「悪いけど、俺に傘は必要ないから」
素っ気ない返事をし、天宮はスタスタと傘を抜けて歩いて行く。
琴葉は慌てて追いかけた。
「風邪引くよ」
天宮の歩幅は広く、琴葉は早歩きをする。
どうしてここまで執着するのか。
それは以前、大雨の中傘をささずに帰った翌日に、3日ばかり寝込んでしまった経験があるからだ。
「……雨に当たらないとダメなんだ」
「え?」
琴葉は、天宮の言っている意味が理解出来なかった。
雨に当たらないと死んでしまうとでも言いたいのだろか。
(いや、でも晴れの日も天宮くんは登校してるし……)
「どうして?」
痺れを切らした琴葉は、天宮に問う。
「それは___」