絶対に、離さないで。(仮)
「・・・・・・や、やっと終わった」
全てが終わる頃にはもう空は暗くなっていた。
下校時刻も過ぎてしまったんじゃないだろうか。
「ふう」
疲れて動く気になれない。
少し休んでから帰ろう。
「帰らないの」
「ちょっと休ませて」
窓から流れてくる冷たい風が、額の汗を冷やす。
すると、いつの間にか隣に天宮が座っていた。
「あれ、天宮くん帰らないの?」
「一人で帰るわけにはいかない」
「そっか。ちゃんと二人で帰らないと天宮くん怒られちゃうもんね」
「・・・・・・そうだけど」
「?」
[ガチャッ]
「ん?」
「今、ガチャッて・・・・・・」
鍵を閉める音だ。
慌てて扉に向かうと、バッチリ鍵がかかっていた。
ドンドンとドアを叩いてみるけど、戻ってきてくれる気配はない。
「嘘だ」
こんなお約束なんていらないよ。
「はあ、鍵閉められたか。須藤先生、俺たちがいるって言ってなかったのかよ」
「ど、どうしよう」
学校に電話すればいいのだけど、私物は全部教室だ。
「天宮くんスマホ持ってる?」
「残念だけど、全て教室」
「だ、だよね」
このまま一晩ここで過ごせと言うことなのか。
少しの沈黙の後、天宮は窓を眺めていた。
「あのさ、この窓から先生見えるけど」
「本当に!?」
「自分で見てみなよ」
慌てて窓から外を見ると、丁度体育館と校舎を結ぶ渡り廊下に鍵を指でクルクルと回す中太りの教師が一名。
数学の田崎先生だ。
「おっ、おーい!」
「もっと声出して」
自分は声を出さずに、人に指示する天宮を横目で睨みながらもう一度大きな声を出す。
「おーーーーーい!先生ーーー!」
「あ?」
振り返った。
「おまえら、なんでそんなところにいるー!」
「資料室の鍵、先生が閉めたんじゃないですかああああ!」
「ああ、そうか。待ってろー!」
小走りで校舎の中に消えてゆく先生。
もう空は暗いが、夜間灯に照らされた頭は今日もよく輝いていた。
それからしばらくして、ガチャッと扉から音がした。
「開いたみたい」
資料室から出ると、息切れ気味の田崎先生がいた。
「わ、悪いな、勝手に閉めて」
「いえ、助かりました」
「それにしてもこんな時間まで・・・・・・ああ、もしかして須藤先生に頼まれたのか」
「はい」
「全く、自分が外れを引いたくせに生徒に任せるとは・・・・・・」
「田崎先生、あまり言わないであげてください。熱を出してる娘さんの為に早く帰ってあげたんですから」
「ふむ、そうだったのか。確か須藤先生の娘さんはまだ幼かったな。まあ、それなら仕方がない」
琴葉はホット一息つく。
「まあ、それはいい。それよりも、もう暗い。二人とも早く帰りなさい」
先生とともに教室まで鞄を取りに行き、そのまま見送られる。