絶対に、離さないで。(仮)
今の時刻は14時半。
「(今更だけど、天宮くん家に居るのかな)」
そういえば天宮の連絡先を知らないな、と今になって思い出す。
天宮の玄関先まで来ると、緊張しながらもインターホンを押す。
返事はない。
「お留守、かな」
帰ろう、そう思ったとき、ガチャリと扉の開く音とともに手がぬっと伸びてきた。
そして琴葉の腕を鷲掴みすると、家の中へと引き込む。
「うぇっ!?ちょ、ちょっと待ってってば」
容赦なく引き込む力に、琴葉は抗えない。
玄関に入ってやっと姿が見えるその手の持ち主は、天宮だった。
休日だというのに制服姿だ。
「天宮くん?ねえ、どうしたの」
さっきから俯いたままで、一言も喋らない。
天宮は、琴葉の腕を引き続ける。
慌てて靴を脱ぎ、小声で「お邪魔します」と言う。
天宮が何をしたいのか、さっぱりだ。
リビングまで連れてくると、ソファに座らせる。
天宮は琴葉の目の前に立ったまま。
「カップケーキ、持ってきたんだ・・・・・・どうかな」
「・・・・・・」
「ええと」
「・・・・・・悪いけど、今そういう気分じゃない」
「・・・・・・制服で、どうしたの?」
「・・・・・・だから」
「え?」
「今日、命日だから」
「めい・・・にち?」
命日と言えば、誰かが亡くなった日。
「俺の、両親の命日。墓参りに行ってきた」
「そう、なんだ」
こういうときは、なんて言えばいいのか。
琴葉は頭の中で考えるが、結局何も言わない。
掘り下げるべきではない話だと思ったから。
「この家、大きいね。天宮くんと誰か住んでるんだよね?」
「今は俺以外住んでない。ここは、父さんの弟・叔父さん夫婦の家で、二人は今海外だから」
「そっか。なんだか寂しいね」
「別に。もう慣れた」
相変わらず天宮は自分から話題を振ることはない。
沈黙も珍しくはないが、いつも痺れを切らすのは琴葉だ。
「や、やっぱりカップケーキ食べよう!お母さんがせっかく作ってくれたんだし。お皿とカップ借りるね。あ、紅茶ってあるかな」
「紅茶はキッチンの食器棚の中にある」
「分かった。天宮くんも着替えておいでよ。制服だと窮屈でしょ?」
「ん」
湿っぽい空気を拭い去るために、ティータイムとしよう。
とは言っても、本当に雨は降っているから、どうしても湿っぽいけど。