絶対に、離さないで。(仮)


長ズボンにパーカーの、みたことあるラフな格好でリビングへ戻ってくる。


既にテーブルには、カップケーキの乗ったお皿とティーカップがある。


向かい合って座り、紅茶をひと啜り。


「(あたたまる・・・・・・)」


次にカップケーキを一口齧る。


「!!」


「(思ってた通り、おいしい!さすがお母さん。今度作り方教えてもらおう)」


チラリと天宮に視線をやると、一応カップケーキを食べていた。


何も口にしないし、顔にも出さないけど。


「どう?」


「おいしい」


「良かった。お母さんにもそう言っておくね」


静かに、カップケーキと紅茶を共に堪能する。


「・・・・・・天宮くん。大きなお世話かも知れないけど、私に何かできることはあるかな。例えば、愚痴の吐き溜め場になってくれ、とか」

天宮は口ごもる。


「(何考えてるんだろう)」


しばらくして、思い口を開き始めた。


「今日は、しばらく・・・・・・近くにいて」


「へ」


琴葉は目を点にした。


予想外だったのだ。


普段人を寄せ付けない天宮か、その逆、近くにいて欲しいと言うなんて。


口をパクパクするだけで肝心の言葉が出ない。


「それとも、このあと用でもある?」


「ない、よ」


「そう。ならよろしく」


「ちなみに、理由を聞いてもいいかな」


「今日だけは、不安だから。俺が、俺でいる為に、そばにいて欲しい」


「うん、わかった」


< 30 / 31 >

この作品をシェア

pagetop