絶対に、離さないで。(仮)
食器を片付け、二人はソファに座る。
"そばにいて欲しい"と言われても、具体的にすることはない。
パラパラと、雨音だけがガラス越しに聞こえるだけ。
あとは、小さく聞こえる自分の心臓の音。
「(毎年この日だけはダメだな。どうしても、ネジが緩む)」
天宮は、毎年この日になると墓参りに行き、帰ると直ぐに眠る。
余計なことを思い出す前に。
だが、今年は妙に胸がざわついて眠れそうになかった。
不安で仕方がなくて、突然やってきた琴葉を無理矢理引き込んだ。
「(なんでこんなに不安になる)」
「(・・・・・・ああ、あの日と同じ"雨"だからか)」
キィーッ、バンッ!
という音が、聞こえてくる気がした。
「(もう、話すことみつからないよ!どうすればいいのっ!?)」
琴葉の頭の中は相変わらずごちゃごちゃと騒がしい。
すると、琴葉の左手に天宮の冷たい右手が重なる。
「っ」
「(このまま、抱きしめてしまったらどうだろう。この不安は落ち着く?)」
「(天宮くんの手、冷たい……それに少し震えてる)」
琴葉か天宮の手に自分の手を重ね返すと同時に、天宮さ琴葉を抱きしめた。
「わっ」
「うん、これでいい」
「(何がいいの!?)」
琴葉は何も良くない。
バクバクと心臓が脈打つ。
そばにいて欲しいってこういうことなのかと、琴葉は考える。
「(いや、絶対に違う!)」
「ん?」
ふと、天宮の背後の棚に目がいった。
置きっぱなしになった半開きのメッセージカード。
"6.30 Happy Birthday 楓
体には気をつけて
悟・恵美 イギリスより"
と書かれている。
「(6月30日って、今日だよね。天宮くんの誕生日だったの?)」
「天宮くん、誕生日なの?」
コクンと頷く。
「おめでとう。何も用意は出来てないけど」
「いい。その代わり、今だけはこうさせて。これがプレゼントでいい」
甘えてるわけでも、泣いているわけでもなく、ただ淡々とそう言った。
「うん。本当に、おめでとう」