絶対に、離さないで。(仮)
菱田は天宮を無事に届けると「くれぐれも気をつけろー」と言って帰って行った。
今はリビングの隣の部屋で布団を敷いて寝かせている。
「琴葉、彼・・・・・・天宮くんだっけ?大丈夫なの?」
琴葉の母・絵里子は、天宮のことを深くは聞いてこない。
「今は落ち着いてるみたい。起きた時用におかゆ作りたいんだけど、いい?」
「もちろん」
絵里子に教えて貰いながら、琴葉はおかゆを作った。
定期的に天宮の様子を見ているが、その寝顔はあどけなくて、かわいらしい。
「(いつもより幼く見えるかも)」
「ん・・・・・・」
「あ、天宮くん起きた?」
「アンタ・・・・・・」
「ああ、無理しないで。おかゆ作ったんだけど、食べられそう?」
「それより、ここって」
「私の家。覚えてない?駅前で、倒れたの」
「ああ、そうか」
周囲をぐるりと見渡し、ここに来るまでのことを思い出した。
すると、突然布団から立ち上がり、帰ろうとする。
「なにしてるのっ」
「帰る」
「まだダメだよ!治ってもないのに出歩くから、またぶり返したんでしょう?」
「アンタ、昨日の今日話しただけの知りもしないヤツをよく家に連れて行こうって気になったな」
「それは・・・・・・そうだけど。でも、目の前の病人を放っておく訳にはいかないもの」
「あら、起きたのね」
そこへ、絵里子がおかゆを持ってやってきた。
「お母さん」
「あらあら、おとなしくしてなきゃダメよ」
「いえ、お邪魔してすみません。もう帰ります」
「ダメよ、寝てなきゃ」
「いえ・・・・・・」
「それにほら、せっかくおかゆまで作ったのよ。食べて貰わなきゃもったいないわ。折角琴葉が作ったのに」
その言葉を聞き、引くに引けなくなったのか、天宮はおとなしく座った。
「はい、じゃあ熱いから気をつけてね」
天宮の膝にお盆を乗せると、小さな土鍋の蓋を開けた。
ふわっと優しい香りが漂う。
「本当は家まで送ってあげたいのだけど、免許持ってないのよ。天宮くん、今夜はうちに泊まっていきなさい」
「・・・・・・はい」
絵里子の、優しくも強制力のある言葉に、天宮はおとなしくうなずいた
「ちゃんと家には連絡しておいてね」
それだけ言って、絵里子は部屋から出て行った。