スキ、だけじゃきっと
「でも、ほら。ここは俺の特等席だから」
「……っ」
藤井はいつも私の自転車の後ろに乗って『ここは俺の特等席』って言う。
それはどう言う意味なの?とか、どんな気持ちで言ってるの?って聞きたい気持ちはあるけれど、藤井の答えが怖くて未だに1度も聞けずにいる。
「あ!藤井、そう言えば3組のなつめちゃんが……」
話を変えるために、咄嗟に口から零れた話題になぜか自分でドキッとして、最後まで言葉を紡げず唇を噛んだ。
「3組のなつめ?……誰だっけ」
「あ、いや……なし!今のなし!」
「は?なんだよ、気になるだろ」
私の中途半端な言葉の続きを気にした藤井が、私の半袖のワイシャツの袖口をグイグイと数回引っ張るから『危ないからやめてよ!』と、藤井には見えないのに頬を膨らませてしまった。
あー、我ながら最悪だ。
だって、3組のなつめちゃんが、藤井の連絡先知りたいんだって……って、言ったら
藤井のことだ。
『え!まじで?』って目を輝かせて、それから『ついに俺にも遅めの春が来たか〜!』なんて、高校2年の夏にして遅めの春の到来に心底浮かれポンチになるに決まってる。
……そんな現状を作り上げたのは、紛れもなく自分自身なのに、性格が悪い私はこの期に及んで、なんでなつめちゃん私に頼むのさ!実は私が藤井のこと好きだって知ってての嫌がらせか?なんて思ってる辺り…もう救いようがなくて泣けてくる。