スキ、だけじゃきっと
もっと言えば、伝える勇気もない自分がなつめちゃんの恋を踏みにじる権利も……ない。
「なつめちゃん。藤井の連絡先……知りたいんだって」
角を曲がれば見えてくる、綺麗な新しいレンガ調の家。綺麗なガーデニングのある小さな庭に、ちょうど走り回って日光浴中だったらしい可愛い柴犬のまつりが「キャンキャン」と私たちの姿を見つけて尻尾を振っているのが見える。
そう、もうすっかり見慣れた藤井の家だ。
「は?俺の連絡先……?」
「うん。私も藤村くんと間違ったのかと思って3回くらい聞いたけど、どうやら残念ながら藤井で合ってたみたい」
キキィッとブレーキ音を鳴らして、藤井の家の前で自転車を停めた私に、案の定 藤井は不機嫌そうな声を出した。
「お前、ほんっっっと可愛くねぇ!!」
「藤井に可愛くしたって仕方ないでしょ」
素直になりたい自分を、
臆病な自分が覆い隠してしまう。
結局のところ、いつもいつも藤井の前では本当の自分を何パーセントさらけ出せているんだろう。
どれだけ自分を隠してるんだろう。
そう思うと、私って藤井にとって本当に中途半端に感じられた。友達として割り切って全てをさらけ出す事は出来ないし、かと言って自分の気持ちを伝えて今の関係を手離す勇気もサラサラないと来たもんだ。