幼なじみじゃ、なくなった夜。
…何でだろう。何で私は、二人が一緒にいるのを、こんなにも見ていられないんだろう。
「……帰ろ」
誰にでもなくそう呟いて、私は出入り口に向かって歩く。
愛理ごめん。ごめんだけど、愛理も私を騙してたからおあいこってことで。
それに、やっぱ無理。話し合うのなんて、無理…
「あれ、どこ行くの?」
横開きの扉に手をかけようとしたところで、それがガラッと開き、その向こうから現れた男が私を見て言った。
私より3つほど上なくらい、だろうか。
クリッとした丸くて大きな瞳が、なんだか子犬みたいだった。
「あ、ちょっと今日はもう…帰ろうかと」
「帰るって、始まったばっかりでしょ?」
何言ってんの、とおかしそうに男が笑う。そして私の肩に腕をまわすと、強引にそのまま歩き始めた。
「ちょ、ちょっと!私は」
「君何年目?」
「3年目ですけど」
「じゃ、後輩だ。後輩は先輩の言うこと聞かなきゃダーメッ♪」
「いや、でも…」
「どうしても、ダメ?」
ふ、と足を止めた男――先輩がウルウルと潤んだ子犬みたいな瞳で私を見つめる。
そ、その瞳は…ズルすぎる!
「いや、あの、……ちょっとだけなら」
「やった~♪」
…一杯飲んですぐ帰ろう。うん。そうしよう。