幼なじみじゃ、なくなった夜。
「ふーん?でも、そう思ってるのは夏帆だけかもよ?」
「どういう意味?」
「さぁ?
とりあえず、それ、ちゃんと隠してから来なさいよ?」
そして私にコンシーラーを渡すと、愛理は意味深な笑みを残して女子トイレを出て行った。
そう思ってるのは私だけ、って…
鏡にうつる自分。昨日までの私と一つ違うのは、首元に残る赤い痣だけ。
…まさか榎波と、こんな風になる日がくるとは思わなかった。
榎波を男として見たことはない。
榎波だってきっと、私を女として見たことはない。
昨日はただの、酒の勢い。
それ以外の理由なんて、
何にもないはずだ。
愛理からかしてもらったコンシーラーを、痣の上に塗っていく。
大人になってよかったことは、
大人だからこういうこともあるんだろう、って、自分に言い訳できるところだ。
そこに気持ちがなくたって、きっとそういうことはできるんだ。だって大人だから。