幼なじみじゃ、なくなった夜。
「…ほ。夏帆?おーい?」
「…え?」
は、と我に返るとカバンを肩にかけた愛理が怪訝そうに眉をひそめていた。
「どうしたの。何か魂抜けてたけど」
「…え?そ、そう?それよりカバン持って、どっか行くの?」
「はぁ?もう定時だけど」
え!?
慌てて時計を確認すると、確かに、もう定時を15分ほどまわった後だった。
い、いつの間に…!!
「…帰らないの?」
驚愕している私に、訝し気に聞く愛理。
どのくらいの時間魂が抜けていたのかは定かではないが、幸いにも、今日中にやるべき仕事は特に残っていなかった。
「あー、うん…」
帰るよ、と言いかけて。
隣のパーテーションの、企画課の女子たちがゾロゾロと出ていく様子を見て、思わず浮かせかけた腰を沈める。
またあの視線を浴びせられるんだろうか。
あの、鋭くて痛い、好奇と敵意が混じった視線…。
「…ごめん、私もうちょっと残ってくわ」
さもやるべき仕事を思い出したかのように資料を引っ張り出すと、愛理は「そ?」と不思議そうにしながらも「じゃ、お先。お疲れ~」と帰っていった。