幼なじみじゃ、なくなった夜。
「…先輩は、違いました?」
「え?」
「先輩は榎波先輩のこと、かっこいいとか、思いませんでした?」
短い沈黙を破って投げかけられた質問に戸惑う。
そんなこと―――
「…でも、榎波も嬉しいだろうね。こんな足立さんみたいな可愛い子に、惚れ直してもらえるなんて」
出てきた言葉は、まるで他人が喋っているみたいだった。
足立さんが分かりやすく眉を吊り上げる。
「…はぁ。なんていうか先輩って、ほんとイライラするタイプの女ですよね」
「え」
「私今度の金曜の夜、榎波先輩の家へ遊びに行くことになりました」
ガン、と鈍器で頭を殴られたかのような衝撃が襲った。
思わず足を止めた私に、満面の笑みを向ける足立さん。
「榎波先輩も頑張ってるみたいですよ?瀬戸内先輩のこと、忘れようって」
じゃ、私こっちなんで。
足立さんのヒールを颯爽と鳴らして、駅の喧噪の方へ消えていく。
私はただそこに立ち尽くしたまま
一歩も動けずにいた。