幼なじみじゃ、なくなった夜。
「ねぇ聞いた?今日榎波先輩と足立さん、一緒に出勤してきたらしいよ」
「えっマジで!?榎波先輩って瀬戸内って人が好きなんじゃないの!?」
「でも足立さんのが正直納得だよねぇ、あの人大学まで読モしてたらしいし。瀬戸内先輩?だっけ?はそれに比べると普通じゃん?」
「えぇー、どっちにしろヤなんだけどぉ〜」
昼。午後の業務に戻る前にと入ったトイレにて。私は個室から出ようにも出られない状況に陥っていた。
「悪かったね普通で!」
と個室のドアをドカーン!と開けて格好良く登場してやりたいところだが、残念ながらそんな勇気は私にはない。実際普通だし。全く反論の余地はないし。
後輩らしき女子社員たちは確かに足立は可愛いけど妬ける、榎波が瀬戸内を好きだと言ったのは何かの間違い、榎波と足立は悔しいけどお似合いだ、ムカつくけど、という結論に達しひとしきり満足したらしく、あ、やばい仕事遅れる!と慌ただしくトイレを出て行った。
「…あー…、なんか疲れた」
誰もいなくなったトイレにて。ようやく個室から出ることが出来た私はポツリとつぶやく。
鏡に映った私は、彼女たちが言っていた通り、どこにでもいそうな平凡な女子だった。