幼なじみじゃ、なくなった夜。






会社まで彼氏が車で迎えにくるという愛理より、一足早く会社を出た。




自動扉をくぐって外に出た瞬間、コツ、とヒールで床を蹴る音がして振り向くと、何人かの女子社員が連れ立って横をすり抜けていった。




『…瀬戸内先輩!』




…何思い出してるの私。



いや、思い出してない。




今日、足立さんが榎波の家に行くことなんて、全っ然、思い出してないから!!




そう自分に言い聞かせながら、足早に家路を急ぐ。


今日はまっすぐに家に帰ってお風呂に入って早く寝るんだから。




そう決意したはずだったのに、なぜか





「すみません、たこわさとホッケときゅうりの一本漬けください。あ、あと唐揚げも!」





気付いたら私は、こないだ発見した居酒屋を再度訪れていた。



注文を終え、先に来ていた生ビールをグイッとあおる。




かーっ、うまい!全然おいしくないけど、うまいっ!




「すみません、生もう一つ…」


「俺も、生もう二つで」





え、



ストン、と私の隣に腰をおろして、ニ、と悪戯な笑顔を浮かべるのは




「…涼平」




いつかみたいな、スーツ姿の涼平だった。





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