幼なじみじゃ、なくなった夜。
「ていうか前も言ったじゃん。いつも一緒にいるわけじゃないって」
「そうだっけ」
涼平の視線が横顔にじ、と注がれているのが分かって、私はそれをホッケの骨とりに集中することで気付かないフリをする。
「涼平こそどうなの?」
「何が?」
「金曜の夜にデートしてくれる彼女とか、いないの?」
「いねーよ。いたらこんな所に一人で来ないって」
「そうなんだ」
骨を取り終わったホッケを頬張りながら、まさか涼平と恋バナをする日がこようとはね、なんて一人しみじみする。
別れた時は辛くて辛くて仕方なかったのに。
当たり前だけど、やっぱり時間は、確実に進んでるんだ。
「…別れた彼女のことが、ずっとどっかで引っかかっててさ」
涼平の言葉に、一瞬ドキッとした。
“別れた彼女ってもしかして…”と一瞬でも思った自分、バカでしょ。
私はフられた身だし、そんなことあるわけないのに。
「…そうなんだ」
私があの時、涼平と別れる直前、街で見かけた子かな…?
あの時の光景を思い返していると、涼平が「こっちから別れようって言ったんだけどさ」と話し始めた。
「その彼女にはいつも一緒にいる幼なじみがいて、すごく仲が良くて。
彼氏は自分のはずなのに、俺いつもどっか、その幼なじみには敵わないような気がしてた」
「…そう」
「全然余裕なくてさ。たまたま同じサークルで仲良くなった子に告白されて、当てつけみたいにその子と付き合い始めた。
バカすぎるよな、ホントに」
自虐的に笑う涼平。
「…もしかしてその彼女には、就活を理由にして別れようって言った?」
「自分が悪者にならない理由が欲しかったんだよ」
…そっか。そうだったんだ。
…バカ。本当にバカだよ。
あの頃私は、本気で涼平のこと
好きだったんだよ。