幼なじみじゃ、なくなった夜。
会社のエントランスに着くと、案の定まだ榎波は来ていなかった。
当たり前だけど会社帰りの人がたくさんいる。
こんな中で榎波を待つなんて
気まずすぎる…!
やっぱり現地集合で、なんてLINEがこないかなぁなんて思いながらテキトーにスマホをいじっていると
「悪い、待たせた」
聞き覚えのあるその声にパッと顔をあげる。
僅かに息を切らしている榎波。どうやら急いできたらしい。いつもよりも全然、早いのに。
ていうか、やっぱり何か、ちょっと気まずい。いかんいかん。いつも通りに、いかなくちゃ。
「もう仕事終わったの?」
「ああ。つーか終わらせた」
「ふーん。ていうか何で今日はわざわざ…」
わざわざエントランスに集合なんてしたの?と聞く間もなく。
榎波が、まるでいつもそうしているかのようなナチュラルさで、私の右手を取った。
「え」
「行くぞ」
グイ、とその手を引っ張る榎波。
あまりに突然のことに、私はなすすべもなく、タイミングよく来たエレベーターに2人で乗り込んだ。