幼なじみじゃ、なくなった夜。
ダイニングバーを出て、少し歩いたところで
「…っおい!待てって!」
あっという間に追いついてきた榎波に腕をつかまれた。
振り向くと、息を切らした榎波。…何でそんなに焦った顔してるわけ。
バカって言ってよ。本気にすんなよ、冗談だよバーカって言ってくれたなら。
私だって、もっと…。
「…バカ」
私の言葉に、榎波が綺麗に整えられた眉をひそめる。
「いやバカはお前だろ。
カシスオレンジ一杯に五千円とかありえねーから」
「榎波のせいでしょ」
「は?」
「榎波が変な冗談ばっかり言うから。
私そういうの免疫ないんだから、もっと冗談なら冗談ぽく言ってよ、バカ!」
…お前なぁ。
返ってきたのは、心底呆れたような深いため息。
「だって冗談じゃないから」
「なに言って…」
「冗談じゃない。なに一つ。今から言うことも、…本気だから」
榎波がつかんでいた私の腕をグイッと引っ張って、気付いた時にはギュ、と抱きしめられていた。
背中にまわされた腕が、痛いほどで。
「…夏帆が好きだ。ずっと前から、夏帆だけが好きだ」
心臓を鷲掴みにされた。