幼なじみじゃ、なくなった夜。






ダイニングバーを出て、少し歩いたところで




「…っおい!待てって!」




あっという間に追いついてきた榎波に腕をつかまれた。




振り向くと、息を切らした榎波。…何でそんなに焦った顔してるわけ。


バカって言ってよ。本気にすんなよ、冗談だよバーカって言ってくれたなら。


私だって、もっと…。





「…バカ」




私の言葉に、榎波が綺麗に整えられた眉をひそめる。




「いやバカはお前だろ。
カシスオレンジ一杯に五千円とかありえねーから」


「榎波のせいでしょ」



「は?」



「榎波が変な冗談ばっかり言うから。
私そういうの免疫ないんだから、もっと冗談なら冗談ぽく言ってよ、バカ!」




…お前なぁ。

返ってきたのは、心底呆れたような深いため息。



「だって冗談じゃないから」


「なに言って…」


「冗談じゃない。なに一つ。今から言うことも、…本気だから」





榎波がつかんでいた私の腕をグイッと引っ張って、気付いた時にはギュ、と抱きしめられていた。


背中にまわされた腕が、痛いほどで。








「…夏帆が好きだ。ずっと前から、夏帆だけが好きだ」







心臓を鷲掴みにされた。





< 21 / 162 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop