幼なじみじゃ、なくなった夜。
体を少し離した榎波が、至近距離から私を熱い瞳で射抜く。
そしてゆっくりと顔が近づいて…
「っいや!!」
ドンッ!
思わず榎波の胸を思い切り押すと、不意をつかれた榎波が僅かによろけた。
「な、何言ってんの榎波。今日の榎波おかしいよ。ずっと似合わない冗談ばっかり…!」
「だから、冗談じゃねーよ。残念ながらな」
態勢を立て直した榎波が、真っ直ぐに私を見据える。その強い瞳に、思わず息をのんだ。
「お前は冗談であって欲しいのかもしれねぇけど、俺は本気だ」
「そ、そんな…意味わかんないよ。
だって私たち、幼なじみじゃん。
偶然ずっと同じ学校で、同じ会社で…」
「偶然なんかじゃねーよ」
…え?
「高校も大学も、今の会社も。
全部お前が行く所を必死にリサーチして、選んだ。
…お前の傍にいるために」
“おい夏帆、お前どこの高校行くわけ?”
“◯◯高”
“へー、バカ高だな”
“うるっさいな、昔からそこに行きたかったの、ほっといて!”
“ねぇ、あんたバカ高ってバカにしてたくせに、結局◯◯高にしたんだ?”
“まーな”
”ふーん。模試の点数でも下がった?”
“まさか。俺が名門の××高なんていったら、それこそモテすぎて困んだろ?”
“はぁ?何言ってんの、バッカじゃない?”
不意に思い出されたのは、中学三年。
志望高校を決めた時の私達の会話。
全部全部、
…偶然なんかじゃ、なかったの?