幼なじみじゃ、なくなった夜。







「…ふーん。で、帰っちゃったわけ?」



「うん、もう、全力ダッシュで。ダッシュしすぎて筋肉痛」





仕事終わり。宣言通り愛理に会社近くの居酒屋に連行された私は、“相談にのってあげる”という名目のもと、榎波と一線を超えてしまったあの夜から、昨晩に至るまで根掘り葉掘り聞かれていた。




「榎波かわいそー。告白信じてもらえないなんて」



一通り聞き終えた愛理が、哀れすぎる、とブククと笑う。



「だ、だって信じられないじゃん。榎波が私のことす…好きとか!だって私と榎波だよ!?」



「あんた、榎波が冗談でそんなこと言うってマジで思ってんの?」



「それは…」




中学三年の頃から抜群にカッコよくなり始めた榎波は、高校ではモッテモテだった。それこそ、女子からしょっちゅう愛の告白を受けるくらいには。



榎波もあの頃は結構チャラくて、来るもの拒まず、去る者追わず、みたいなところがあって。



告白してきた女子と付き合っては、少しして別れて、また付き合って、の繰り返し。




ところが大学生になった瞬間ピタリと誰とも付き合わなくなって、なんか、女に疲れたとかカッコつけたようなこと言ってたけど。





『あんなの勝手に寄ってきただけだ。
俺が口説きたいと思ってんのは今も昔も、ずっとお前だけだから』





…じゃぁ彼女をとっかえひっかえしてたあの時期も、実は私のこと好きだったってこと!?
女と付き合いながらも別の女が好きだったってこと!?それってどんな心理状態!?!?




混乱してきた私はビールをゴクゴクと流し込む。とりあえず、飲んで忘れたい。紛らわさせたい、色々と。




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