幼なじみじゃ、なくなった夜。
「………」
「………」
私と榎波を包む、気まずい沈黙。
ど、どうしよう。
こんな風にするつもりじゃなかったのに。
体が勝手に反応して。
何か、言わなきゃ。何か…
「傘持ってねーのかよ?」
沈黙を破ったのは、榎波の方だった。
そしてまるで何事もなかったかのように、傘を広げる。
「入れよ。送ってってやる」
…何事もなかったかのように、してくれてるんだ。
「だ…大丈夫!土砂降りってわけでもないし、走れば楽勝だよー!」
だから私も、普通に、しなきゃ。
無理やり元気のいい声を出すと、はぁ?と榎波の眉間に皺が寄った。
「女がバカなこと言ってんな。
風邪でもひいたらどうすんだよ?」
…お…女って!!
バチ、と視線がぶつかって、うろたえる。
確かに私は女だ。生物学上、紛れもない女だ。
だけど榎波の言う“女”には、それ以上の意味も含まれているような気がして。
意識してしまう。