幼なじみじゃ、なくなった夜。
「俺のせいだって分かってる。分かってるけど
…夏帆に避けられんのは、結構しんどい」
榎波がつかんでいた私の手を持ち上げて、無理やり傘を握らせる。
「榎波」
「返さなくていいから」
そして私が引き止める前に、あっという間に雨の中へ飛び出していった。
徐々に小さくなる榎波の背中を、私は立ち尽くしたまま見送る。
…あんなに辛そうな榎波の顔、はじめて見た。
…最近、榎波のはじめての顔ばっかりで。戸惑って。気まずくて。避けてた。
榎波と遭遇率の高い社食には絶対行かなかったし、なるべく自分の部署から出ないようにしてた。
自分のことしか考えてなくて
なんでだろう。
榎波の辛そうな顔に、声に、心臓を抉られたかのような気分だった。