幼なじみじゃ、なくなった夜。







「あの…これ、ありがとう」




ん、と傘を差し出した私に、榎波が怪訝そうに眉をひそめた。




「返さなくていいって」



「言われた。けどそんなわけにはいかないし。それに…」




顔をあげて榎波を見ると、彼も私を見つめ返す。




「…言っておきたいことが、あって」




「言っておきたいこと?」







昨日一晩、考えて。



一つだけ分かったことがあった。





私は、榎波を悲しませたくない。傷つけたくない。



辛そうな彼を見ると、たまらなく自分も辛くなるんだってことが分かった。





だから、





「考える」



「…は?」



「…私、正直榎波を今まで、一人の男の人として見たことなかった。男の人っていうか…榎波は榎波で。いるのが当たり前の存在、っていうか…。

だから、戸惑って、逃げてた」








信じない。



あの日彼にそう言ったのは、ただの自分への逃げ道だった。





でももう、榎波を傷つけるのは嫌だから。逃げることは、一番榎波を傷つけることだと思ったから。





「私ちゃんと考えるよ、榎波のこと」





…す、と僅かに細められる榎波の目。






「だからもう少しだけ…時間をください」






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