幼なじみじゃ、なくなった夜。
大学時代、涼平と別れた、あの頃。
誰よりも話を聞いてくれて、傍にいてくれたのは榎波だった。
『あんな男のことなんて速攻忘れろ。もっといい男なんて山ほどいる。例えば俺とかな?』
そう言ってニッと笑った榎波の顔は今でも覚えてる。
だからきっと、今も心配してくれているのかもしれない。
「…榎波。私は大丈夫だから、今日は先帰って?」
安心させるつもりでそう言うと、「はぁ!?」とただでさえ大きな瞳(羨ましい…)をクワッと見開いた榎波。
「何で俺が帰んだよ!?帰るのはコッチだろ!」
そして涼平をビシッと不躾に指差した。
「や、だって涼平はわざわざ来てくれたわけだし…」
「わざわざ!?じゃぁお前は家までつけてきたストーカーにもわざわざ来てくれたんで、って茶出してもてなすのか!?アホなのか!?」
「ちょ、何で急にそんな話になるの!?全然違うじゃん、わけわかんない」
「分かるわ、お前がバカなだけだろ?」
「はぁ!?バカっていうほうがバカだし、バーカ!」
「お前なぁ、バカっていうほうがバカとか言う奴が一番…」
「はい、ストップストップ」
私たちの幼稚な言い争いを止めたのは穏やかで、そしてどこか呆れを含んだ涼平の声。
「ほんと変わんないね、二人とも」
…やばい。なんか猛烈に、恥ずかしい。
そういえば大学のときも何回かあったな。
こうして涼平の前で榎波とくだらない言い争いをして、涼平がそれを、苦笑いしながら見てる。
…まさかそれが、数年越しに再現されるとは思いもしなかったけど。