幼なじみじゃ、なくなった夜。
「…今日は帰るよ」
そんなに年齢は変わらないのに、大人びた涼平の笑い方は今でも変わってない。
大人になった今でも、やっぱり涼平は大人に見えた。
「おー、帰れ帰れ」
クルリと背中を向けた涼平の背中に向かって悪態をつく榎波。絶対、わざと聞こえるように言ってる。
「…ねー、榎波」
どこかホッとした顔をしている榎波の横顔に話しかけると、ん、と彼が先ほどよりは大分穏やかになった目で私を見下ろした。
「さすがに涼平に対して敵対心出しすぎじゃない?私のこと心配してくれてるのは分かるけど…」
「はぁ?心配?そんなんじゃねーよ」
え、違うの?
キョトンとする私に榎波がため息をつく。そしてグッと眉間に皺を寄せて、吐き捨てるように言った。
「ただただ、超絶不愉快なだけだ」
「ふ、不愉快?」
「そう。つーかアイツ、今更夏帆の前に現れてどういうつもりだよ。
やっぱ警察に通報すっか」
そして本当にスマホを取り出し始めたので、「ちょっと待ってよ」と慌てて止めた。
「つい最近、通勤中にたまたま会ったの」
「はぁ?通勤中にたまたま?そんな偶然あるわけねーだろ」
「それがあったの!偶然、うちの会社のすぐ近くの会社に転職したんだって」
「…ふーん」
だけど榎波はやっぱりまだ、納得いかなそうな顔をしている。