幼なじみじゃ、なくなった夜。





『おまえこんなのも分かんねぇのかよ、ほんとバッカだなぁ』



『俺が名門の××高なんていったら、それこそモテすぎて困んだろ?』



『もっといい男なんて山ほどいる。例えば俺とかな?』





榎波は昔から、いつもどこか上からで、偉そうで、余裕綽々で。




こんなに余裕のない榎波を見るのははじめてだった。





…いや。一度だけ、ある。





『…避けんなよ』





あの時の榎波は、今と同じ顔をしていた。





「…あの、榎波…」



「なんてな」




ふ、と顔をあげてみると、さっきまでの榎波はどこにもいない。



いつもと同じ、余裕そうな笑みをみせた榎波がそこにいた。





「嘘だよ。そんなマジになんなよ?ちょっとからかおうとしただけだっつーの」



「う、嘘?」



「当たり前。お前を一か月や二か月や半年待つくらい、超絶余裕」




そして、なんせ十年以上待ってんだからな?と悪戯っぽく笑う。




「ま、恋愛経験少なすぎるオコチャマな夏帆がそんなすぐ答え出せるとは俺も思ってねーし」



「お、オコチャマって…」



「つか、悪いけど今日はやっぱ一人で飯食うわ。わざわざ待ち伏せして悪かったな。じゃ」



「ちょ、えな…」




そして榎波はクルリと背を向け、夜の街を歩いていった。







…榎波。私これでも榎波の幼なじみだから




わかるよ。どっちが嘘で、どっちがホントか。






榎波。ごめん。私は…










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