極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~
「イヤな思いをさせてすまなかった」
帰りの車内で謝る紬に小さく首を振る。
ああいう風にハッキリと言われることはなかったけど、慣れたものだ。
「全然気にしてませんから大丈夫です」
明るく言うも、紬の表情は暗い。
仕方なく私も口元から笑みを消し、黙って窓の外に目を向ける。
するとしばらくして芳川さんの名前を口にした。
「芳川は本当はあんなこと言う奴じゃないんだ。人の心に寄り添える優しい男なんだ」
それは私にも分かる。
同期が犯した不正をなんとかしようと考えていた彼は紬が言う通り、人の心に寄り添っていたから。
「楓のこと、あんな風に言うなんて信じられない。一体、なにを言われ、なにを答えたんだ?」
「それは…すみません。言えません」
事がことだけに、特に紬には話せない。
両手に抱えているリュックを持つ手に力が入る。
そんな私の手を、赤信号で停止したときに紬がそっと握った。
「言えないようなことを言われたんだな。本当にすまなかった。代わりに謝る。この通りだ」