極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~
「力になりたいから」


ポツリと小さな声で言うと、紬は首を傾げた。


「力になってくれているじゃないか。楓の実力を俺は認めてる。だから、家族と近しい関係者には最近になって上場の話をしたんだ。その中で公私に渡るパートナーになって欲しい人がいるとも話した」


まさかこのタイミングでその話が出るとは思わなかった。

先を越され焦る私の手を紬は取り、優しく、かつ力強く握り締めた。

「引き抜きの件、本気で考えて欲しい。俺は楓に『結婚』と言われたあの日、驚きはしたが、未来が拓けた気がした。上場に踏み切れたのもあれがキッカケなんだ」


私を必要としてくれる言葉と真っ直ぐ見つめる瞳に胸が高鳴る。
でも…


「楓」


紬の会社の資料が入ったリュックに目を向けていた私の名が、はっきりとした声で呼び掛けられた。

それで視線を紬の瞳に移せば、真っ直ぐ私を見つめる意志の強い目がそこにはあった。


「俺について来て欲しい。税理士としても、ひとりの女性としても。一生大事にする。どんなときでも守り抜くから」


嬉しい。
すごくすごく嬉しい。

でも今の私には応えられない。
話さなければならないことがある。

高揚する気持ちを抑えて、紬の手を離し、立ち上がる。
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