極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~


そんな微妙な雰囲気の中、司会進行である実松さんの声が響いた。

「えーそろそろお時間なので、採決を取ってもよろしいでしょうか。勝俣先生を当社所属の税理士として、藤澤先生を公認会計士として当社に携わってもらうことに賛成の方、挙手をお願いします」


このタイミングで、という感じが否めない。

役員の方々を見れば、周りの様子を伺っている。

長年、一緒に働いてきた仲間を信じたい気持ちの方が強いのだろう。
いくら私が声を上げても、私の言葉を信じてもらうには関わってきた時間が圧倒的に足りない。

ここまでか…。

そう思い、目を閉じようとしたとき、不正を行ったであろうふたりのうちの細身の男性から手が挙がった。


「あ?!おい、成田!なに手挙げてるんだっ!」


私を睨んでいた男性が成田さんに向かって声を荒げた。
でも成田さんはそれを無視して、紬に向かって口を開いた。


「私は彼女が当社の税理士になることに賛成します」
「理由をお聞かせ願えますか」


紬が冷静に言葉を返した。
それに対して成田さんは頭を下げた。


「私とそこにいる皆本は会社の経費を誤魔化していました。申し訳ありません」


成田さんが罪を認めたことで会場内はザワつき、皆本さんは立つ瀬なく、頭を抱えた。
その中で冷静だったのは成田さんで、話を続けた。


「言い訳をするわけではないのですが…社長は先程『皆さんの経験と知識は他に変えられないもの』だと仰ってくださいましたよね?ですが、わたしは正直、社長の新しい手腕に付いていけなかった。それがプライドを逆撫でされて、悔しくて、最近では私服を肥やすこと、若い人の足をすくうことしか考えていなかった」


そして私の方を見て言った。


「申し訳なかった。仕事に誇りを持っていると堂々と言えるあなたの目を欺くことなど出来るはずがなかった。贖罪になるか分からないが、辞める前に部下に伝えます。勝俣楓という税理士が社内にいる限り、不正は絶対にするなと。必ずばれてしまうから、と」


そう言って、頭を下げた彼に私も同様に頭を下げ、気持ちを受け取る。


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