極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~
「子供じゃないんですから」
泣き笑いの顔を向けて言うと、所長はニヤリと笑って、鞄から一枚の紙を取り出し、私に差し出してきた。
「なんですか?……って、え!?これ、本物?!」
「偽物の訳ないだろ。ちゃんと役所に取りに行ったんだから」
でもこれって…
「婚姻届、ですよね?!」
しかも証人の欄には所長のサインと捺印がされている。
「驚いたか」
「そりゃ、もちろん」
「それは良かった。勝俣くんが役員に認められたらこれを渡そうと考えてたんだ。ほら、日取りもいいし、きみたちはもう結婚を前提に付き合っているわけだから当然必要なものだろう?」
たしかに私は紬に勢いで結婚を申し込んだし、紬からもプロポーズ的な話は受けた。
でも親に話してないし、紬のご両親にも挨拶していない。
「所長のご好意は実にありがたいですが、まだ出番はないと…って、あ!」
突然背後から伸びてきた手が、私の手から婚姻届を取り上げた。
慌てて振り返って見れば紬が婚姻届を手にしているではないか。
「それは…!私が所長からいただいたものです!」
返して欲しいと手を伸ばすも身長差に負け、簡単に避けられてしまう。
「なんだ。これは俺にも関係あるものじゃないか」
そう言うと紬は隣に立っている実松さんに声を掛けた。
「ペンを貸してくれ」
その社長命令に実松さんは可愛らしいピンクのペンケースからシルバーのボールペンを取り出し、紬に手渡した。
「え、ちょっと、何してるんですか?!」
椅子に腰かけた紬は、あろうことかこの場で『夫になる人』の欄にスラスラっと必要事項を記入し始めたのだ。