極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~
「藤澤所長はなかなかのやり手、というか曲者だよな」
契約成立後、早々に退散した所長の背中を見て、さすがの紬も苦笑いを浮かべていた。
「まだ彼の元で勉強したかっただろ」
「まぁ、そうですね。でも…」
会議室がある方を見てから、紬を見上げて答える。
「所長とはこれからも関わっていきますし、なにより成田さんは部下に伝えると言ってくれましたから。『勝俣楓という税理士が社内にいる限り、不正は絶対にするな』って」
あの言葉で私の居場所が出来た。
成田さんが作ってくれたこの場所を私自身で守らなければならない。
だから私はここで成長していくんだ。
「社長と一緒に。この会社を守り、大きくしていきます」
「そうだな。これから、末永く、よろしく頼む」
いつかのように手が差し出された。
それをしっかり、力強く握り返す。
「よろしくお願いします…って、わ!」
握り返した手が紬の方へ引き寄せられ、ギュッと力強く抱き締められた。
「く、苦し…」
あまりにも力強く抱き締めるものだから、呼吸すらしにくくて、苦しさを訴える。
「あ、悪い。嬉しくて、つい」
一旦、体を離してくれたけど、すぐにまた引き寄せられ、今度は優しく包み込むように抱き締められた。
「楓。今日はありがとう。皆の前で俺のことを好きだと言ってくれて、皆に認められるように準備してくれて、そして認めてもらえて、すごく嬉しかった」
耳元で感情込めて言われたら私も紬を強く抱き締めたくなる。
でもここは社内の応接室。
扉は開けっ放しだし、実松さんもいつ戻って来るか分からない。
理性で紬の腕からすり抜け、距離を置く。