極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~
「別に周りの目を気にしなくても平気なのに」
「そういうわけには…」
視線を逸らしたまま言葉を濁すと、紬はそのまま何も言わずに部屋を出て行ってしまった。
怒らせてしまったのだろうか。
いや、でも、いくら役員の方たちに私たちの関係を報告したからと言っても、職場で抱き合うなんて非常識だ。
会社によっては夫婦となった場合、職場を離されることだってあるくらいなんだから。
ただ、怒らせたかったわけでもない。
『また仕事を優先してる』なんて言われそうだけど、ここが職場でなければ私だって紬にもっと触れたいって思っている。
「キスさえしてないんだもん」
握手を交わした手で、所長にご褒美としてもらった婚姻届に触れる。
「本当に私のこと好きなのかな?私でいいのかな?」
「いいに決まってるだろ。誰よりも好きなんだから」
独り言に答えが返って来たことに驚き、入り口を見るとそこには身支度を済ませた紬が立っていた。
「いつからそこに?!」
「『キスさえ…』と言ってたところから、か」
その部分を聞かれたなんて。
恥ずかし過ぎて顔を合わせられず、両手で覆う。
「隠すな。俺だって同じこと思ってた」
紬はそう言うと応接室のドアを閉めて、私の元へやって来た。
そして顔を覆っていた手を取り、ニコリと微笑んだ。
「今、しようか?」
「今、ですか?!いや…だから、ここは職場ですので」
ダメだと伝わるように小さく首を左右に振る。
それに対して紬はフッと小さく笑った。
「そう言うと思ったよ。だからキスをするのに相応しい場所を用意した」
「え?」
紬の言葉の理解に時間が掛かっている私の目の前で紬は婚姻届を手に取った。
「この契約書と当社との契約書にもその場所でサインしてもらう」
そう言うと私の答えを聞かずに、私のリュックと私の腕を掴んで室内から出た。