極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~
駆け足に近い感じで紬のあとに続く。
すると不思議なことに廊下で私たちとすれ違った社員の方々から声が掛かり始めた。
「この度はおめでとうございます」
「お幸せに」
…って、いつのまに知れ渡ったのだろう。
エレベーターホールに向かうまでの間に一体何人の方からお祝いの言葉を貰ったのか。
伝達速度に驚きを隠せないのと同時に状況についていけず、返す笑顔がぎこちなくなってしまう。
エレベーターに乗り込んでようやく気持ちが落ち着くなんて、こんな日が来るとは思いもしなかった。
「大丈夫か?」
心配そうに見つめる紬に首を縦に振ってから今、感じたことを答える。
「社長は本当に社員の方々から慕われているんですね」
急な話なのに皆、まるで自分のことのように手放しで喜んでくれていた。
その分、また私でいいのか、という不安が脳裏をよぎる。
「いいんだって」
不安を打ち消すかのようなはっきりとした声がエレベーターの中に響き渡った。
「皆、楓のこと認めている」
「どうしてそんなこと言い切れるんですか?」
役員の方たちに認めてもらえたのはほんの数十分前の話で、それ以前は、私の存在そのものが社にとってマイナスになるくらいの解釈だった。
それを直接会議内で聞いているのだから間違いない。
「とてもじゃないけど、全社員に認めてもらえているとは思えません」
紬の車に乗り込み、話の続きをすると、紬はエンジンをかけながら単純明快な答えをくれた。
「今日の会議は社内にライブ映像として配信していたんだ。だから結婚のことも、楓の実力も、すべて皆が知っている」
そんな画期的なシステムがあったなんて。
「知りませんでした」
「あれ?言ってなかったか?まぁ、でも納得したようだな」
私の表情を見て紬はそう言うとアクセルを踏んで車を発進させた。
「あのー、この車はどこへ向かっているんですか?」
「着いたら分かる」
「またですか」
行き先を教えてくれないのには慣れた。
だからそれ以上追求しなかったけど、さすがにここは…。