極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~
それより紬は、彼より2歳下の私が担当することに不満があったようで、税理士と書かれた名刺と私の顔を交互に見ては露骨に顔を歪めた。

そんな彼の訝しげな表情を見て、見習い期間を終えた頃にお客様から言われた言葉を思い出した。


『こいつで大丈夫か』
『こんな若僧には任せたくない』
『新米の女になにが出来る』


初めて担当を任されて、やる気に満ちていたのに、そんな風に言われて。
結局は所長に付き添って貰う形でなければ仕事をさせて貰えなかった。

もっとも、はじめから私を信頼して仕事を任せてくれた人はほとんどいなかったけど、あからさまに敬遠されたことが悔しくて、一人前と認めて貰えるためにプライベートな時間を犠牲にして必死に所長にしがみつき、経験を重ねた。

今はその時間を自信に変え、私に不信感を抱いていそうな彼の前でも普通に仕事をし、普通に話しかける。


「売上は順調そうですね」


海外向けの事業を展開しているこの会社は2代目である紬の父親のとき、経営危機に陥った。

が、一昨年、還暦を機に経営をひとり息子である紬に譲ったことで会社の経営は持ち直し、あれよあれよという間に資産は倍以上に増えた。

その優れた経営手腕は経営誌にも注目され、近々上場するであろう会社として特集を組まれたほどで、この会社の話をもらったとき、彼に会えるのだと思ったら前夜は興奮して眠れなかった。
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