極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~
幸い、うちの事務所には他に経験豊富な税理士がいる。
所長は公認会計士の資格も持っているし、今後のことを考えれば今のうちから所長が担うのが適任かもしれない。


「引き継ぎはしておきます。それと…これは責任持って処分します。余計な時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」


机に置かれた書類に手を伸ばす。
でも書類は先に紬の手に渡ってしまった。


「処分する必要はない」
「いえ。使えないものを置いて帰るわけにはいきません」


もう一度返してもらえるよう手を伸ばす。
が、その手は空を切った。


「これは参考にさせてもらう」
「え?」


今、『参考にする』と言った?
聞き間違いだろうか。
混乱する私を見兼ねて紬が口を開く。


「このコンサルティングは実によく出来ている。今まできみのことを見誤り、俺の思い違いで失礼な態度を取ってしまい、すまなかった。引き継ぎはしないで大丈夫だ」


そこまで言うと紬は立ち上がり、壁に掛けられているカレンダーの前に立った。


「本音を言えば、今の今まで4ヶ月後の決算は他の税理士かきみのところの所長にでも頼もうと考えていた。だがそれもやめた。このままきみに任せる」
「あ、ありがとうございます!」


良かった。
一瞬、本気で見放されたと思ったから。

余計に嬉しくて、その気持ちを伝えたくて、ジッとしていられない私は紬の背中に向かってガバッと頭を下げた。

そして顔を上げれば、いつのまにか振り返っていた紬が私の目の前に歩を進め、手を差し出してきた。
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