極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~
なにそれ。

そんなこと思ってない。

思っていないことを口に出すわけもない。

ただ、否定しようにも紬は到着したエレベーターにさっさと乗り込んでしまい、タイミングを逸してしまった。

『開』ボタンを押したまま私の方は見ずにただひたすら乗り込むのを待っている紬を見て、心がざわつく。

エレベーターに乗り込む一歩一歩がいつもの倍以上に重い。


「うっ…」


エレベーターの扉が閉まった音に緊張が走り、反射的に目を閉じる。
静かに上がっていくエレベーター。
その重力に逆らっていく感覚が気持ち悪い。

それでもなんとか耐えていると、密室に紬の低い声が響いた。


「目を開けてみろ」
「あ…はい。やってみます」


怖いけどこれ以上、気に触ることはしたくない。
そう思ったからこそ言われた通りに少しずつ開けてみる。

すると目の前にキラキラとした高層ビル群の灯りが広がった。


「うわ…なにこれ…綺麗」


ケーブルカーで見た夕焼けも綺麗だったけど、ビル街の灯りと車のライトにより作り出された夜景はそれとは別に美しい。


「昼間より怖くなかったんじゃないか?」


エレベーターを降りた瞬間にそう言われて首を縦に大きく頷いて見せる。


「怖さより夜景に見惚れてしまいました」
「やはりそうか」


紬はそう言うとエレベーターの下ボタンを押しながらここに来た理由を教えてくれた。

「下りのケーブルカーに乗ったとき、夕陽に見惚れて高さを気にしていないようだったから夜景も同じ効果があるんじゃないかと思ったんだ。それに夜は視界が狭まるしな」


そんなところまで気にかけて、そして細かいところまで見ていてくれたなんて。

仕事がどうの、とか関係者だからどう、とかそんなことばかり考えていた自分が情けない。
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