極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~
告白
なにがいけなかったのだろう。
帰宅中も帰宅後も、お風呂に入っていても、寝ていても、日が明けて出社して、いつも通りにパソコンに向かっても、そればかりを考えている。
これが解決しない限り、全然仕事にならない。
でも、どれだけ理由を探してみても、思い浮かぶのは紬の笑顔と手の温もりと、それと対照的な冷たい表情ばかり。
「うぅ…」
髪を掻き毟り、頭を抱える。
だってどれだけ考えても思い当たることがないんだもの…。
「大丈夫か?そんなに悩むほどのことでもあったのか?」
声を掛けてくれたのは、携帯用ミストで顔にミストを当てていた所長。
職場なのにも関わらず、顎から滴るほどの量を当てていることに若干、引いてしまうけど、パソコンを前に頭を抱えている部下がいればその状態でも声を掛けずにはいられなかったようだ。
「すみません。ちょっと問題にぶち当たりまして…」
ティッシュを渡しながら正直に答える。
すると所長はティッシュを顔に押し当てながら、隣の席の椅子を動かして、パソコンの前に並ぶようにして腰掛けた。
「どこが分からないんだ?」
机の上に腕を組んで聞く姿はまるで家庭教師のよう。
でもパソコン上に問題はないと、首を左右に振り応える。
「ならどうした?」
自分の子供を心配しているかのような優しい声に、今、考えられる最悪の事態を話すことに決めた。
「ナカツガワとの契約ですが、切られるかもしれません」
「え?!」
私のつぶやきに驚きの声をあげたのはちょうど横を通った遠藤さん。
「なにがあったの?」
聞かれてしまったら仕方ない。
遠藤さんと所長に昨日、紬と登山に出掛けたこと、途中までは楽しく過ごせていたのに、私のなんらかの言動で紬の態度を一変させてしまったことを話す。
「身に覚えはないの?」
遠藤さんの質問に首を横に振って答える。
「本当に?」
だめ押しの質問に今度は首を縦に振る。
するとそれまで黙って聞いていた所長が急に立ち上がり、携帯用ミストに代わって手帳と財布を手にして戻って来た。
「遠藤さん。申し訳ないが急いで手土産を買って来てくれ。俺は午後に予定していた2件分のキャンセルの連絡をするから」
「手土産ですか?いいですけど、いったい、なににお使いになるんですか?」
お金を受け取りながら遠藤さんが理由を聞くと所長は私の方を見て言った。
「ナカツガワの社長に手渡すためのものだ」
「え?」
これから会おうとでも言うのか?
でもなぜ…?
「早急に手を打つ。だから勝俣くんは先方に10分でもいいから時間を作ってもらえるよう連絡しなさい。理由を聞かれたら担当の変更と今後のことについて話がしたいと言えばいい」