極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~
「そんなのイヤです」
自分が蒔いた種だとしても上場を理由にするなんて嫌だ。
紬と仕事をすることを楽しみにしていて、それが叶って、ようやくいい関係が築けそうだったのに、このままなにも出来ないなんて。
それに紬の笑顔をもう見れないのだと思ったら、心が壊れてしまいそうに苦しい。
「じゃあ他に方法があるのか?」
唇を噛み締めている私に所長が問い掛けてきた。
でも無力な私には答えることは出来ない。
「せめて…せめて最後にきちんと挨拶だけでもさせていただけませんか?」
そんなことしか言えないなんて。
不甲斐なくて情けなくて悲しくなる。
だから「余計なことは言うなよ」なんて釘を刺されてしまうんだ。
涙を流さなかっただけマシかもしれない。
でも所長が部屋をあとにしてもその場から動けない。
そんな私の背中を遠藤さんが摩ってくれた。
「悔しいわよね。でも楓ちゃんなら大丈夫よ。一件担当がなくなっても他にお客様たくさんいるし、信用されてるんだから。それに先方にはいい話よ」
信用なんてひとり無くしてしまえばみんな無くなったも同じ。
まして一番、信用して貰いたかったひとからの信用を失ったんだから。
「好きなのに…」
しまい込んでいた気持ちが溢れ出てくる。
でもどうすることも叶わぬまま、気持ちを押し殺し、受話器に手を伸ばした。