極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~

規則


『改めて。よろしく頼む』

紬のしっかりとした声が耳に残っている。

高揚する気持ちを抑え、差し出された紬の手を握り返した右手にも彼の手の感触が残っている。


「力強かったな…」


握手をすることは時々あるけど、あんなに力強く握り締められたのは初めてだった。

それに私を真っ直ぐに見つめる視線も、同じように力強かった。

帰社して2時間。
それほどの時間が経つというのに私の視覚、聴覚、触覚が今だに紬の存在を留め続けている。


こんな感覚も初めてで少し戸惑う。
でも認められたことを思い返せばやる気がみなぎってくる。


「よし」


紬に握られた手でマウスを操作し、彼の会社のデータを起こす。


「今の私に出来ることを確実にかつ誠実にやれば大丈夫」


そうすれば手を離されることはない。

決意を新たに、いつも以上に慎重に作業を進めること数時間。

気付いたときには退社時間が過ぎていた。


「楓ちゃん。今日はノー残業デーだけど、急ぎの仕事があるなら手伝いましょうか?」


キョロキョロと所内を見渡していた私に声を掛けてくれたのは遠藤聡美さん、54歳。

所長が事務所を立ち上げたときから働いている、知識も経験も豊富なベテランパートさんで、ふくよかな体型と優しい笑顔から事務所の母的存在として確固たる地位を築いている。
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