極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~
所長の声が止むと、一気に室内が静かになる。
それが数秒、数十秒と続いたところで所長が「突然のことで驚かれましたか?」と声を掛けた。


「来月は決算期なのでその前に話を、と思い、今日こうしてお時間を頂戴した次第ですが」
「あぁ、なるほど。そうでしたか」


紬はそう言うと、小さくため息を吐いてから所長を真っ直ぐに見て話を始めた。


「上場については考えていました。上場後のことも見据えて、社内で働いてもらう優秀な税理士も探していたんです。それが見つかったと思ったんですが…」


そこまで言うと私の方をチラッと見た。
それに所長が反応した。


「勝俣くんを引き抜くつもりだったんですか?」


この質問に紬は答えない。
その代わりに別の言葉を口にした。


「『関係者でなければ良かったのに』」
「え?」


所長と私の声が重なった。
ふたりで顔を見合わせていると紬がもう一度同じことを言った。


「俺とは『関係者でなければ良かったのに』と彼女から昨日のうちに言われています。まさか上場の話まで絡んでいるとは思いませんでしたが、そんな風に言われて引き抜きなんてしませんよ。すぐに辞められては困りますからね」


ちょっと待って。
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