リト・ノート
「じゃ」

飼い主が見つかったことに反応することもなく、片手を軽く上げるだけで羽鳥は行ってしまう。うまく声もかけられず見送ってから、美雨は自分が見覚えのない街角にいることに気づいた。

このあたりの住宅街は細い道が複雑に入り組んでいて、東西南北どこを向いて歩いているのかもわからない。

とりあえず、今来た道を戻ればと考えてから、そもそもどちらから来たんだっけと立ち止まる。

美雨には方向感覚がない。普段は知っているルート以外歩かないように注意しているぐらいだった。

うろうろと戸惑っていると、いつの間にか振り返ってこちらを見ていた羽鳥が声をかけた。

「道わかんなくなった?」

「さっきのところまで戻れれば……」

「遠回りだろ、それ。中園んち小学校の近くじゃなかった?」

そんな話をしたことがあったかなと少し驚いているうちに、羽鳥は近づいてきて「こっちからのほうが早い」と美雨を追い越して別の道に進み始めた。

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