リト・ノート
いつか犬を拾ったあたりを通る。あの子は元気かな、大きくなっただろうなと考えていたら「美雨」と遠くから呼ぶ声がした。
他に誰もいないかなと慌てて通学路の周りを見たが「誰かいたら呼ばねえよ」と走り寄った羽鳥に軽くあしらわれた。
そういう態度がこっそり付き合ってるみたいでおかしいんだと美雨は不満に思う。羽鳥がわざと呼び方を変えているのか特に深く考えていないのかはわからない。
「どっか行くとこ?」
「図書館に行こうかなって」
「電話出ないから家に行こうと思ってた。ここからすぐだから、ちょっとうち寄ってって」と羽鳥は美雨の帰り道とは違う角を指す。
家から来たらしく羽鳥も私服だ。上着なしで寒くないのかと聞くと「走って来たから」とこともなげに言う。この陸上部男子は美雨にとってはいつまでも謎の生き物だ。
「話せるようになったの?」
「いや、でもリトがお前と話したがっている気がする」
本当だろうか? 用があれば頭の中に直接話しかけてくるはずだ。実際、「羽鳥はバカでこまる」「カゴの掃除が雑だ」などの短い苦情連絡は時々来ていたから心配していなかった。
でもそろそろ帰りたがっているのかもしれない。
誰かに見られる前にと慌てたのか「こっち」と言った羽鳥が美雨の手を引いて歩く形になり、マンションに入る直前で「あっ」と気づいて慌てて離した。
「悪い、つい」
謝られても何を返せばいいのかわからなくて、結局何も言えなかった。美雨の方はつながれた時から気づいていたのだから。
他に誰もいないかなと慌てて通学路の周りを見たが「誰かいたら呼ばねえよ」と走り寄った羽鳥に軽くあしらわれた。
そういう態度がこっそり付き合ってるみたいでおかしいんだと美雨は不満に思う。羽鳥がわざと呼び方を変えているのか特に深く考えていないのかはわからない。
「どっか行くとこ?」
「図書館に行こうかなって」
「電話出ないから家に行こうと思ってた。ここからすぐだから、ちょっとうち寄ってって」と羽鳥は美雨の帰り道とは違う角を指す。
家から来たらしく羽鳥も私服だ。上着なしで寒くないのかと聞くと「走って来たから」とこともなげに言う。この陸上部男子は美雨にとってはいつまでも謎の生き物だ。
「話せるようになったの?」
「いや、でもリトがお前と話したがっている気がする」
本当だろうか? 用があれば頭の中に直接話しかけてくるはずだ。実際、「羽鳥はバカでこまる」「カゴの掃除が雑だ」などの短い苦情連絡は時々来ていたから心配していなかった。
でもそろそろ帰りたがっているのかもしれない。
誰かに見られる前にと慌てたのか「こっち」と言った羽鳥が美雨の手を引いて歩く形になり、マンションに入る直前で「あっ」と気づいて慌てて離した。
「悪い、つい」
謝られても何を返せばいいのかわからなくて、結局何も言えなかった。美雨の方はつながれた時から気づいていたのだから。