リト・ノート

「キタイハズレダナ、ケンゴハ。中途半端になんでも興味を持って、それじゃ何もものにならない」

リトの声が突然棒読みになった気がした。健吾と呼ぶのも聞いたことがなかった。この数週間で呼びかたを変えたとしても、違和感がある。

反応しない隣の羽鳥を見ると、目を見開いてリトを凝視していた。

「省吾と同じように育てようとしたのが無理だったのか。健吾にはできない」

羽鳥の左手が突然冷たくなっていく。

違う。リトの言葉じゃない。これはきっと羽鳥の記憶に同調してるってことだと気づく。

「なんだよ、それ」

低く押しころした声で聞く羽鳥に、チチチといつも通りリトが鳴いた。

「思い当たるふしがあるようだね」

「なんでお前がそんな話知ってんだ」

「なんのことかな?」

「親父だろ、そう言ったのは」

それには答えず、リトは羽を広げて羽鳥に告げる。

「僕も君には期待すべきじゃなかった。君にはできない」



凍りついたような一瞬の後、ドンと音がした。羽鳥が右手を拳にして机を叩いたのだ。

「わかったよ。どうせ俺にはできねえよ!」

憤然と部屋を出る羽鳥を、美雨は急いで追いかけた。玄関に向かう廊下で追いつき必死で声をかける。

「違う、違うよ羽鳥。リトはわざとやってるし、何か別のことを言ってるんだよ」

「何が違うんだよ、やってもできねえんだよ。省吾と違うとか、期待はずれとか、言われなくてもわかってんだよ!」

「違うの。そう言ってやる気を出して欲しいだけなんだよ」

「……やってもできねえんだよ」

眉を寄せた苦しそうな顔で羽鳥がうめくようにいった。

そんな顔をしないで。そうじゃない。私が逃げたの。私のせいなの。

そう美雨が思ったとき、どこかでドアががちゃがちゃと音を立てた。


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