リト・ノート
その瞬間に何かが変わった。

見つかる! 突然そう思った。怖い。一気に襲って来た恐怖感に体がすくむ。踏み込んでくる人たち、探している声が聞こえる。

「ひっ」と小さく声を立ていきなり足取りがおかしくなった美雨に羽鳥も反応した。

ふらついた美雨の腕を掴んで顔を覗き込み、蒼白な様子に驚く。

「美雨? なに、どうした?」

ガチャリと鍵が開く音とともに、2人のすぐ先にある玄関ドアが開いた。

「ただいまー」

と背の高い男子が入ってくる。踏み込んでくる人なんていない。羽鳥の兄が帰ってきたのだ。

それでも、雪崩れ込んで来たイメージに圧倒されて、美雨には何が現実かわからなくなりつつあった。

開いた扉から古めかしく薄汚れた服装の何人もの男女が靴音を立てて踏み込んで来る。来ないで、来ないで。捕まえないで!

ぎゅっと目をつぶり、目の前のシャツをつかんだ。



「……何やってんの?」

女の子の冷たい声が聞こえる。

「違う。沙織が思ってるようなことじゃない」

声を抑えて言う羽鳥に、沙織は逆に怒りを爆発させていた。

「じゃあどういうこと?」

「こいつがふらついたから捕まえただけ」

「なんで美雨が健吾のうちに来てるの」

「お前に関係ないだろ」

言い合う2人の声は、美雨にはさらに大勢の男女の騒然とした声に聞こえた。雑音に聞こえる言葉は『いるはずだ』『探せ!』『隠すとためにならない』そういう内容らしかった。

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