リト・ノート
目を覚ますと、白い天井が見えた。チチチとリトが鳴いた声につられて美雨は起き上がる。

ぼんやりと黄色い小鳥を見つめた。

ああ、そうだ、沙織に見られた。言い訳しても無駄だろう。美雨は羽鳥にしがみついていたのだから。

羽鳥の部屋のベッドに座りこんだまま、美雨はリトに小さく話しかける。

「リトがやったんでしょう?」

「なんのことかな?」

「とぼけないで。羽鳥をわざと怒らせて、私にあんなの見せて、一体リトはなにがしたいの?」

「僕が勝手に見せたわけではない。君が思い出したんだよ」

「思い出した?」

あんなの自分の記憶じゃない。そう思ったけれど、違う、自分だと気づいた。

逃げていた。うっかり見られた力を咎められ手をつないで逃げたのだ。隠しておかなければならなかったのに。心と身体を癒す能力は、悪魔との契約だと噂されるようになっていた。そんなものではないと証明して見せたかった。それがバカな考えだったとわかったときには、もう兄が連れ去られていた。

一緒に逃げるんだと彼は言った。この力の元である私さえいなければ家族は見逃されるかもしれない。そんなはずはなかったのに。結局は彼とともに家族もろとも捕まった。私は最初から自分一人を差し出すべきだった。家族のために、彼のために。

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