リト・ノート
考えが読めるからか、リトは美雨が落ち着いたのを見計らってから話し出す。

「彼は結局できないんだ。君を守ることができない。中途半端な知性と中途半端な覚悟。わかっていたのに僕はまた、期待をしすぎたようだ」

「またって何? 誰の話をしてるの? いつも羽鳥にきついことを言うのはその人と間違えてるの?」

「間違えてるのは君じゃないか? 彼は変わっていないよ」


『彼』という言葉に反応して、新しいイメージが美雨の脳に流れ込んでくる。

彼と2人で夜道を走っていた。土埃が上がるでこぼこした道は、月明かりだけで走るのは難しかった。

足手まといになったのは自分だ。逃げ足が遅いだけじゃなくためらいがあった。家族を置いていくことも彼が助け出してくれるということも信じきれず迷っていた。

『いつも気分の良いことをすれば間違いないの』と兄に教えた自分はいなくなっていた。本当なら危険を察知できたはずだった。不安と迷いで鋭いはずの直感は効かなくなり、最後にはその迷いに飲み込まれることになった。

「夜が更けるまでこの小屋でいったん休もう」

私を気遣ってそう言った彼に頷いたのも自分だ。明かりもつけずに二人寄り添ってうとうとと眠った。

いつものように髪を撫でてくれた彼は癒しの力を持ってはいなかったが、その瞬間の何よりもの癒しだった。そして、ここにいてはダメだとようやく気づいたのもその瞬間だった。その時にはもう、遅かったのだけれど。

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