リト・ノート
信じてもらえないのを覚悟で、美雨はリトに話しかけることにした。
「リト、こないだきついこと言ってごめんね」
返事がない。沙織がいるからかと思ったが、リトがそこにいるのはわかった。でも声が聞こえない。
「リト? 話しかけないでって言ったのはごめんね? もう一度話をして」
チチチとリトは羽を広げる。羽鳥と目が合って、美雨は首を振った。
立ったまま右手を差し出すと驚いたようだったが、いつものように重ねた。
「聞こえてるんだろ?」
チチチと声がする。反応はあるが、話せる気配はない。その後も何を聞いてもダメだとわかると美雨は手を離した。
「どうなってんだよ」
「これで信じろって、無理でしょ?」
沙織が言うのも無理ないことだったが、羽鳥はうんざりした顔をする。
「今本当のこと言ってよ。鳥がしゃべったなんて嘘でしょ? リトって言う友達がいるって言うのも嘘なの? なんでこんなことまでしてごまかすの?」
「嘘じゃないんだけど、隠しててごめんなさい……あと、羽鳥のこと」
「中園には俺が言うなって言っといたんだよ」
『羽鳥のことを好きだって言わなくてごめん』と言おうとしたのに、羽鳥が割り込むように口を出してくる。
「中園? いつもは美雨って呼んでるくせに、健吾の言うことなんて信じると思う? 私と付き合ってるのだって隠したがってたよね? そういえば別れるきっかけだって、私が美雨に話したいって言ったからでしょ。あの時からもう美雨のこと狙ってたわけ?」
「沙織、いいかげんにしろよ。そういう話じゃないんだって」
「2人とも最低。意味わかんない」
羽鳥が深くため息をついて天井を仰ぐ。