リト・ノート

自分の気持ちを言うタイミングを失っていた美雨はもう一度口を開こうとするが、羽鳥のほうが先になった。

「ノート、今持ってる?」

ノートを見せればずっと前から2人で会っていたことがバレる。羽鳥は「持ってない」という逃げ道を用意したのかもしれない。

でも最近、美雨はこのノートを持ち歩いていた。このためだったのかなと思って、取り出して沙織に手渡した。

「リトのことずっと書いてるの。おじいちゃんにもらった時のことから」

「9月っていうところ。沙織がいるときは何も言わなくて、俺がたまたま行ったらしゃべったって書いてある」

「こんなの後からだって書けるでしょ」

「そこまでやってると思うなら、それでもいいけど。友達だったらわかるんじゃないの、こいつがどういう性格してるか」

「健吾なんかに偉そうに言われたくない」

沙織がパラパラとページをめくりながら言う。しばらく無言になった沙織はやがて美雨に顔を向けた。

「じゃあなんで今、しゃべらないの。美雨にも聞こえてないってことなんでしょ?」

「こないだ、沙織にここで会った後、もう話しかけないでって言ったせいかもしれない」

「怒鳴ってたよな。強力な願いだったから今更解けないとか、そう言うことかな」

羽鳥の見立ては当たっているかもしれない。願いとしてリトが採用した可能性はありそうだった。
< 117 / 141 >

この作品をシェア

pagetop